第1章

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最後だけちょっとはしゃいだ口調になるママ。あたしは小さく笑った。 「毬奈・・・ママはね、早く毬奈に言いたいの。少しずつ忘れて行きましょうって言いたいの。無理な事だけど・・・」  カーブするために一瞬黙るママ。 「だけどね、少しずつ過去にはなって行くものよ。心の傷は一生残っても・・・何年かかっても・・・。・・・あなたが10歳で行方不明に なったとき、家は大パニックだったわ。でもお友達の家にいると思って、電話を沢山かけたの。だけどどこにもあなたはいなくて・・・」 「うん・・・」 「戻って来たら17歳。沢山の可愛い盛りを見ずに時間が過ぎたわ。だけど、いいの。これからがあるの」 「うん・・・」 「今からでも沢山ママに甘えてちょうだいね。7年分よ」 ママはうっすら笑う。あたしも釣られて笑みを浮かべる。  気付けば、校門前に到着していた。 気をつけてね、と言葉をかけられ、あたしは校内へと向かった。  授業にはやっぱり身が入らず何となく聞いて、何となくノートをとっていた。 殆どを窓の外を見て過ごした。  あの木陰で授業が出来たら気分がいいのにな、なんて考えていた。 グラウンドには体育の授業を行っている生徒たちがいて賑わっていた。 あたしは体育が大嫌い。走る、とかが苦手。マラソン大会が行われる時には 理由をつけて休むつもりだ。  ふと、木陰で何かが動いた。 あたしはそこに意識を集中し、じっと見つめる。  動いた何かは、ゆっくりと木陰から出てくる。人だ。 庭を綺麗にしている人かなぁ、なんて考えていた。しかし、 人物の全てが陽に晒されたとき、あたしは絶句した。   そこに立っている木陰から出てきた人物は、雅也だった。 雅也は一度両腕を上に上げて伸びをすると、ふいにこちらを向いた。   確実にあたしを見ている。私服姿で、あの、優しい笑顔で。 あたしはいても立ってもいられなくなり、授業中だという事も忘れて立ち上がる。校庭を見ながら立ち上がる。 「どうした?笹木」 教師が声をかけてくる。 クラスメートも静かに、少しずつざわめき始める。 「・・・い、いえ・・・あ、あの・・・」  あたしが教師を見つつも校庭を見たりを繰り返すものだから、教師は不思議に思って自身も校庭を見た。 「・・・男がいるなぁ・・・知り合いか・・・?」 「え!違います!そういうんじゃなくて・・・あの・・・あの・・・」
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