第1章

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あたしは1時間で見送られて帰宅した。ママに30分だと言っていただと言っていたけど、全く怒られなかった。  笑いながら 「30分なんてあるわけないじゃない。夕方まで帰ってこないと思っていたわよ」 なんて言ってた。  夕食以外に久しぶりに食べ物を食べた。チキンナゲットだけど。 チキンナゲットだけど、だけどなにか脱した感があった。  自分はこうして変わって行くんだ、みたいな思いがあった。  でも下校時友人と遊んだのは小学生以来で、酷く疲れた。 「ママ、ちょっとだけ寝てくる。お夕飯のとき起こしてくれる?」 「ええ。わかったわ。」 あくびをしながら2階へと上がって行った。自室へ入る。 ベッドへ制服のまま倒れこむと、余りにも気持ちよい。瞼がくらくらと落ちてくる。  ママが窓を少しだけ開けていたらしく、気持ちのいい空気が入ってきて、それも睡魔を誘う。 あっという間にあたしは眠りに付いた。  あたしは夢を見た。  雅也の夢だ。  恐怖でもない。  怒りでもない。  憎しみでもない。  解放でもない。    悲しみだった。 彼を思う悲しみ。どうしてこんなに悲しいの。  あたしを7年間も檻に入れて、外には1歩も出さなかった人間、憎むべき相手なのに 悲しくて仕方がない。  そこから逃げて、雅也。 そこから逃げて。  夢の中の雅也が振り返る。 『毬奈・・・俺を元に戻せるのは・・・お前しかいないのに・・・』  ・・・あたしには何もできないよ雅也。できないよ・・・。 悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。 ピークに達した悲しみの中意識が戻った。 涙が頬を伝ってる。あたしはゆっくり起き上がる。何故犯罪者のために泣くんだろう?  ・・・いや、あたしにとっては、ただの犯罪者ではなかったんだ・・・。 みんなが言っているような人ではないんだ・・・。 心が、身体が、日々痛感している。  あたしは立ち上がった。クローゼットから、以前ママが買ってくれた皮製の茶色の旅行カバンを取り出した。 空っぽの中を開ける。そこへ、4,5日程度の衣類と、下着、普段使っている化粧品の予備である新品、洗顔など出かけて困らないものをしまい込んだ。  多分雅也はあたしのところへ来る。来たらあたしは行ってしまう。今そう確信してしまったからだ。 監禁はもう嫌だけれど、素直に向かう姿を見せれば拘束されないかもしれない。
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