第1章

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話せばわかってくれるかもしれない。 なにより彼は優しい人。もしダメだったとしても・・・その時はその時だ・・・。とにかく暴力を振るわれたりはしない。 荷造りしたカバンを、あたしはベッドの下へ隠した。 高校生活は失いたくない。 自分の道を自分で、親や友達に助けられながらも進んでいく喜びもわかった。 それを手放したくはない。  だけど。脱獄までした雅也。  正直話し合いたい。甘いのはわかってる。でもきっとわかってくれるような気がしてならないの。  もし本当に来たら、このカバンを持って家を出る。少しの間だけと約束して。  あと、変なことはしないって約束も。  甘い。あたしは甘い。わかってる。犯罪者に会おうとしている。甘いどころじゃない、非常識だ。 もう誰も守ってくれないかもしれない。これはとても危険な賭けだ。  あたしは・・・。  あたしは恐らく。 恐らく雅也に会いたいのだ。何てことだろう。  色々な状況、環境を抱えている雅也に、何かしてやれないかと甘い考えを浮かべているのだ、結局は。  あたしは、有城雅也に、会いたい。  そしてもう悩みがなくなるように、全てにきちんと決着をつけたい。彼があたしの前からきちんと姿を消すように。  ・・・姿を消す、と考えて、何だかあたしの気持ちは妙な気分になった。  一体あたしは、彼にどうあってほしいのだろう。 あんな生活は本当に二度と嫌だ。それだけは本当だ。 ああもう何だかわからない。会えばわかるかもしれない。  夕食も終えてずっと考え込んで、気付けば23時をまわるところ。 温かい季節ということもあって、あたしは、寝る前は窓を開けて網戸だけで眠る事にした。 雅也、早く来て。話し合いたいの・・・。  自分の行っている行動はおかしい。なのに何故か止まらない。 会うのだけでも恐ろしいはずの男なのに。 『毬奈・・・』  頭の中で聞こえる優しい甘ったるい声。あたしは確かに何度も逃げようとした。片足の鎖を外せないかとか、後ろ手にされてぐるぐると巻かれたロープをもがいて弛められないかとか。 結局は無理で、バテてその場にへたりこむ。雅也が何も知らず夏場の時期にはよくアイスティーを淹れて持って来る。 バテているあたしの様子を見て気付くが、何も問わない。 『ショートケーキとガトーショコラ、アイスティーと一緒に食べるならどっちがいい?毬奈』  
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