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駅へ向かうバスは、朝から満員で。
朝のバスの本数は多いというのに、ぎゅうぎゅうに人が押し入る。
学校へ行くことに気乗りしない私も、そのバスへと乗り込んだ。
どうやら、私の後ろの二人で定員だったらしい。その次に並んだ人が足を止め、ドアが閉まる。
人の密度は、今日も変わりない。
ドアを真横に寄りかかり、揺れる車内でまた息を唇から溢した。
「うわー。次のバスにすれば良かったね、綾音」
「もう少し、こっちに来なさい。守ってあげるから」
私と同じように、ドアへ背を預けているロングの黒髪の学生が、茶髪のボブヘアの女の子を引き寄せたらしい。
「わっ」と小さく驚く声と共に、黒髪の女の子に密接した茶髪の女の子。
視線を下げれば、腰を抱かれている。
友達……だよね?
私が抱く恋心がそう見せるのか。それとも、本当は……。
僅かな疑問が浮かび上がったところで、カーブにさしかかった。
重心を保てるような隙間がないバスの車内。少しのカーブで全員が傾く。
ドアの近くである私は、鉄の棒につかまってそれを堪えた。
チラリと横目に彼女たちを見たら、かわらず女の子を抱く姿が目に入る。
守られている。茶髪の女の子が。
揺れなど、彼女たちには感じられないほどに動かない。
「友里。三鷹のことだけど」
バスの中であるからか、黒髪の女の子は小声で話始めた。
「三鷹は加虐思考の持ち主で、勇者を鍛えるという名目で楽しんでいただけよ。なのに、何がそれほどまでに良いのかしら?」
抱かれている女の子の耳元に落とす声色は、どこか不満げで。
それを肩に額をあてながら聞いているであろう女の子は、顔を上げて笑顔を見せた。
その二人の顔の距離は数センチ。
あまりにも近いというのに、二人とも気にしていない。
いや、私が気にしすぎなのかも……。
「だってさぁ。三鷹様は、綾音に似てるでしょ。綾音だって……ほら、ね……いつも私を弄る時に……その、楽しそうというか?」
笑顔で途中までハッキリと言った彼女は、最後に言葉を紡いだ時には、何故か頬が赤く染まった。
「あら……そう」
どこか驚いたような表情と、呆気にとられたような声を出した黒髪の女の子。
次の瞬間には、フワリと柔らかく微笑んでいた。
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