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「そう、だったのね」
優しい笑みを浮かべながら、紡がれる声。
その笑みを見る茶髪の女の子は、恥ずかしそうに小さく頷く。
また、カーブにさしかかった。
私は、慌てるように視線を逸らして棒を握る手に力を入れる。
傾きそうな体をなんとか腕で引き寄せ、二人を見ないようにしようと思った。
何故なら、そこは二人の世界で。私は聞き耳をたてているだけの部外者だから。
けれど、近い距離であるために、その会話は自然と耳に入ってきた。
「友里。だったら、何故、三鷹を勇者のカップリング相手にしたの?」
「いや、それは。ぐふっ……三鷹様が出るときって、たいてい勇者がいる時だし。三鷹様が鍛えているのは勇者で、その時にしか楽しそうじゃないから……自然とね。
でも特に良かったのは、崖から突き落とす時のあの素晴らしく冷たい笑みで、こっちまでゾクゾクしちゃって、あーもう本当になんなの、三鷹様になら踏まれても、落とされても何をされても良い!」
突如として、女の子の声色が明るくなった。
何の話をしているのだろう。とてつもなく、変な言葉を聞いた気がする。
踏まれても、落とされても良いなんて言ったその彼女を、盗み見するよう横目に見れば……、
「…………貴女、鼻血がでているわよ」
鼻血が出ていた。
冷静にそれを指摘した女の子へ嬉しそうな瞳を向けて。鼻血なんて気になっていないかのように口を開く。
「あ~、三鷹様になら……私……」
輝いて見えるほどの、幸せそうな笑み。
鼻血なんて気になっていないかのように、ではなく、気にしていない……?
胸に込み上げる何かは、違和感をもう一つ感じていて。鼻血の女の子を前に、抱き締めている黒髪の女の子は冷静すぎることが気にかかった。
ダラダラと出ている鼻血は黒髪の女の子の制服にもついているはずで。
それを嫌がるでもなく、拭き取るでもなく。
二人ともが動かない。
だ、大丈夫なの?
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