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「ありがと。ほんと助かった」
真希はそう言いながら、シルバーのキューブの助手席に乗り込んだ。
「はい、これお礼」
真希はフリースのポケットから缶コーヒーを一本取り出して、運転席の太一に手渡した。
「なんだよ、缶コーヒー一本?安いタクシーだな」
太一は缶コーヒーを受け取りながら不服そうに真希に言った。
真希と太一は小学校時代からの友達で、お互い二十七歳になった今でも奇跡的に友達の関係が続いている。
「何?いらないなら返してよ」
真希は助手席で自分の缶コーヒーを飲みながら、太一に向かって言った。
「タッちゃんこそ、あたしにクリスマスプレゼントとかないわけ?花束のひとつくらい持って来てもいいと思うんだけど」
太一はため息をつく。
「花屋に花束プレゼントしようと思うバカはいないだろ」
「欲しいかもしれないじゃない」
真希は太一を横目できっと睨みつけた。
「センスねぇ花束だなとか思われんの嫌だろ。お前そういうのうるさいじゃん」
真希はふてくされて黙り込んだ。
確かに普段から道を歩いていても、花束を見ると自然に値踏みしてしまっている自分がいる。
ラッピングや花の組み合わせなど、どう見てもセンスのかけらもないただ大きいだけの花束を抱えた人が多すぎるのだ。
「日本人の男はね、花にこだわらなさすぎるのよ」
真希は言った。
「ときどき外国人のお客さんが来るけどね、そりゃあこだわって注文してくれるんだから。『僕の彼女はこういうイメージでこういう花が好きだから…』ってね」
「ふうん、めんどくせぇな」
太一は運転しながらさほど興味もなさそうに真希の話を聞いている。
クリスマスが終わった夜の街並みは、まだキラキラとイルミネーションが灯っている。
「…綺麗だな」
「そうね」
真希はぼんやりと窓の外を眺めた。
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