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「ねぇ、あなた」
麻里子が武に微笑みかける。
「どうした?」
武が年越し蕎麦をすすっていた顔を上げると、麻里子の上品で美しい顔立ちが目に入る。
「あした持って行くお料理なんだけど」
「うん、どうした?そういえば重箱がキッチンに出てないな」
「そうなの。毎年ね、普通のお節料理はお義母さんもお義姉さんも作って来るじゃない?若い子やお義父さんは飽きちゃうのよね。お酒のおつまみにもあんまりだし」
「確かにそうだな。俺も実はそんなに好きじゃないんだよなぁ」
武は去年までの元旦を思い出しながら答えた。
毎年、母や叔母や兄嫁が競うようにお手製の美しい重箱を持ち寄るのだが、男連中や子どもたちが食べたいのはそんなものではなかった。
「でしょ?」と麻里子は言った。
「だからね、今年はローストビーフとか唐揚げとか煮込みハンバーグとか、普通のお料理を作ってみたの。そのほうがみんなも嬉しいんじゃないかと思って…」
麻里子の料理の腕前は武が一番よく知っている。
美しい重箱に詰めた麻里子のお節料理は、毎年芸術品とも言える出来映えだ。
「それはいいな。オヤジや琴美や奈々美もそのほうが喜ぶんじゃないか」
麻里子の作るものは何でも美味い。
武は満足げにうんうんと頷いた。
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