340人が本棚に入れています
本棚に追加
店の壁に飾っていた星やサンタのオーナメントを、脚立に乗った絵美が次々に外していき、大きなゴールドクレストに巻きつけていた電飾をくるくると巻き取る。
絵美が数えた売上金額を真希がパソコンに入力し、本社にメールで報告するのは毎日の日課だ。
花屋の本社とは言っても元々はウィンドウディスプレイやホテルウエディング、パーティーやイベントの会場装飾などが専門の会社である。
その社長が趣味の延長で始めたのがこの小さなフラワーショップであり、正式な事業部が立ち上がり店舗数が増えた今も、相変わらず本社では片手間のお遊び事業として扱われているらしい。
したがって、店長の真希が売上金額を報告したところでよほどのことがない限り、本社のマネージャーからはお叱りを受けることもお褒めの言葉をいただくこともない。
店の入り口には、本物の葉牡丹と来年の干支があしらわれた門松を飾って、店全体がようやくクリスマスからお正月モードに切り替わった。
「さ、帰ろっか!絵美ちゃんお疲れさま!」
足元の門松の位置を確認し、ぱんぱんと両手をエプロンではたいて立ち上がった真希は、メイクも崩れてすっぴん同然になっている。
絵美は真希の言葉を聞くと、ピンクのポインセチアを大切そうに抱えてタイムカードをガチャンと押した。
「絵美ちゃん、自転車でしょ?気をつけてね。あとこれ、あたしからのクリスマスプレゼント」
顔が半分隠れるくらいマフラーをぐるぐるに巻きつけた絵美に、真希は小さな紙袋を手渡した。
「えっ…!店長からあたしに?!いいんですか?!」
「絵美ちゃんには特別。あたしとお揃いよ。あ、もうクリスマス終わっちゃうけど」
真希は腕時計をちらりと見ると、にっこりと笑って言った。
「メリークリスマス。絵美ちゃん、また明日ね!」
「ありがとうございます!」
絵美は白いダウンジャケットを羽織り自転車にまたがると、ぺこりと頭を下げて真希に手を振った。
遠ざかる白いダウンジャケットに赤いマフラーをぐるぐる巻きにした絵美の背中に向かって、真希は笑いながら
「雪だるまみたい」
と呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!