第1章

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 その会話の中で「涼ちゃんは未成年で親が心配しているんです」という言葉を聞いた時、セシルたちの顔色が変わった。 「<Lies>の関係者!?」  すぐにセシルは携帯端末を開きバンド<Lies>のメンバーの顔と声を確認した。声の主は<Lies>のもう一人のギターでサブ・ボーカルの平野美也だと分かった。 「これは…… ちょっとまずいかも」  嫌な予感を覚えた。今、島のゲームバランスは運営側に不利に働いている。ユージは重要関係者を片っ端から逮捕し追い詰めている。関係者はピリピリしているはずだ。  セシルは無言でマーガレットを見、頷いた。  そのアイコンクトでマーガレットは自分の任務を悟り静かに立ち上がると、バッグを持って立ち上がり、静かに部屋を出て行く。彼女は平野の監視兼護衛が任務だ。セシルは番組があるから動けない。他の局員もなんらかの任務がありすぐには頼めない。  セシルは携帯電話を取ると、ユージに電話した。  ……今、島のことで騒がれるのはまずい……  敵は過敏になっている。会話を聞く限り平野はかなり真剣で、服部は間違いなく苛立ち返答はあやふやだった。彼女を監禁するくらいはしてくるかもしれない。  護衛が目的……というよりは、そのリアクションで動いた敵を捕捉できれば、自分たちの捜査はより進む……セシルはそう判断した。  だが、ユージは電話中だった。  仕方なく米国のアレックスに報告した。しかし、東京にいる特別エージェントを動かすには米国経由だと時間がかかる。だからセシルはそれまでの繋ぎとしてマーガレットを行かせたのだ。  セシルは再び盗聴に戻った。結局服部は無視するような形で平野を振り切ったが、この対応からどういうことが起きるかはセシルでも正確には分からなかった。  東京 午後21時04分  ユージはある男から新しい話を聞いていた。 「なんだって?」  予想もしていなかった相手からの電話だった。  香港マフィアの長老、チェン・ラウ。その影響力は、香港系マフィアはもちろん全世界の華僑全てにまで影響力を持つ、中国系裏社会の法皇のような男だ。  そして、ユージの知己でもある。 『君が今どんな事件を追っているかは知っているよ。だから忙しいことは知っているんだが、聞いて欲しくてね』 「それは構いません。さっき言った事は本当ですか」 『紫条家は麻薬一族だ』  ユージは考えた。
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