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ラウの話で一番ユージに伝えたかった情報は、つまりそういう事だろう。日本の警察や海上保安庁をアテにしても無駄だということだ。彼らは米国政府とは違う立場で、紫ノ上島に大きな負い目のような秘密がある。日本の政府関係組織の常として事なかれ、隠蔽主義を根幹に持ちその部分においては米国より視野が狭い。
長期的には日本側も米国の要請を受け入れ協力するだろうが、即断即決で協力することはない。その事は皮肉にも元日本人のユージはよく知っている。
「貴重な話、有難うございました。この借りは……」
『君が私に借りを、だなんて、悪い冗談だ』
ラウはそういうと、口元の笑みをさらに深くした。
『私が君から受けた恩に比べれば、この程度の事など少しも問題にならないはずだ。君が私を知己としてくれるだけで、私は君に永遠に感謝し続けるだろう。それどころか、今回もまた君に貸しを作ってしまうだろう。君が恐縮することはない』
ラウは『老人はもう寝る時間のようだ』と言い、静かに受話器を置いた。
ユージも黙って携帯を懐に入れた。
今の話をもう一度考える。
今、海上保安庁は特殊暗号コードが働いているから島でどれだけ騒いでも駆けつけることはない。これは米国政府としてもこんな異常事件が起き、米国政府や軍からその要請が出ていてもおかしくない。それはアレックスに確認すれば済む。もし米国側の要望で無ければ企画側が出したのだろう。であればその線を攻めれば日本政府や海上保安庁、警察庁に巣食う内通者を知ることもできる。
だがその線を追う意味はなくなった……
日本政府関係者たちが協力しているのは、恐らく紫条家の麻薬絡みの線からだろう。ラウがわざわざ最初に『紫条家は麻薬一族だ』と言った言葉の真の意味はそこにある、とユージは見ている。ユージにとって敵はウイルス兵器を開発・販売を企み今回のデスゲームを企画した者たちであって日本政府の膿を搾り出すことではない。何よりFBIでもCIAでも日本政府の犯罪者を裁く権利はない。ラウの忠告は、言わばユージにとって余計な捜査の枝葉を切ってくれた形になる。
……となれば、次の標的はやはり羽山光則だな……
黒神グループ取締役羽山光則。黒神グループ内の会社を自由に使え大金を動かせる人物。政治家、官庁の筋を除けば、日本での最大のフィクサーだ。
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