朱色の雪

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 『食事』を終えた雪は、急いでさらに南にある巨椋池へと向かう。汚れないように畳んでおいた服を池の縁に置いて、腐臭を消すために水浴びをする。さらに、匂いを消す薬草を摘んで噛み、体中に擦り付ける。慣れた方法だった。拾われてから数度、同じことをしている。が。 「!?」  突然、眩暈に襲われた。  ぐらりと、空と地面が反転したように見えた。  それから、吐き気。  それでも雪は服を着て、急いで帰る支度を整える。  早く、帰らなければ。  主が、心配する。 「雪!!」  転がるように家に着いたのは、すでに日が暮れてからだいぶ時間が過ぎていた。心配した主が、夜だというのに外にでて、松明を片手に周囲を照らして回っているところだった。 「よかった!心配したんだぞ!どこへ行っていたんだ?」  安堵の表情でそう言って、雪をしっかりと抱きしめた。そのとき、異変に気づく。 「雪・・・?どうした?苦しいのか?」  荒くつく息は激しく、走ってきたせいというには収まる気配がない。  こう暗くては顔色はわからないが、胸を押さえて苦しそうに呼吸を繰り返す雪の様子は尋常ではないと思われた。  急いで家に入り、養い子を床に寝かせる。汲み置きの水を柄杓で注いで、杯から飲ませると激しく咳き込んだ。 「病か・・・?それとも、鬼にでも出遭ったのか?」  この時刻では医者は無理だ。鬼に盗賊。外を連れ歩くには危険すぎる。途方にくれた主は、知人である陰陽師に助けを求めようと、連絡用の蝶の姿をした使い魔を放とうと立ち上がろうとした。しかし、それを雪が止める。 「雪?」  ぜいぜいと苦しそうに息をしながら、主の着物の裾を強く掴んで、必死に首を横に振る。 「何故だ?お前を助けてくれるかもしれないんだぞ?」  言い聞かせても、首を横に振るばかり。 「・・・わかった、呼ばない。だから安心して寝ていろ」  息をついてそう告げると、ようやく雪はその手を離した。  相変わらず苦しそうに喘いでいるが、おとなしく床に横になる。主は鬘を整える油を染ませるための海綿に水を含ませ、雪の額に乗せてやった。喘ぐ呼吸が、少し穏やかになった気がした。  
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