朱色の雪

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翌日も、その翌日も。  雪が良くなる気配はなかった。  悪化もしていないが、改善する兆候もない。医師に見せるといっても、陰陽師を呼ぶといっても。その全てに、雪は首を横に振る。  それからさらに何日かがたった、夕刻。  店を閉めて雪の元にきた主は、心配そうにその髪に手を触れた。 「・・・雪。おまえ、どうしてこうなったかわかってるんじゃないか?本当に大丈夫なのか?鬼に襲われたんじゃないのか?」  小さな声で問いかけても、雪は熱に浮かされて潤んだ漆黒の双眸で見上げてくるばかりだ。  そのとき、どこからともなく一頭の蝶が。  燐光を放ちながら、室内に入ってきた。 「・・・?」  主が、雪の視線に気づいて振り返る。 「晴明?」  そう主が、陰陽師の名を呟いたとき。  ざわり、と。  全身の肌が総毛立つような感覚が、雪を襲った。 「―――――っっ!!!!」  声にならない悲鳴を上げて、突如苦しみだした雪に、主が気を取られた瞬間。 「雪?」  ぴしり、と。  小さく空気をはじくような音がして、蝶の光る羽が、切り刻まれたように宙に舞った。  なにが、と、主は蝶へ、そして雪へと向ける。 「!!!」  そこには、黒髪を白銀に変え、瞳を金色に光らせて、獣のようにこちらを睨みつける雪が、四つん這いで伏していた。その目には理性がなく、完全に我を忘れている様子である。 「雪!?」  驚いた主が、目を見開く。 「・・・お前が、鬼だったのか・・・?」  そう、言い終えると同時に、雪だったモノが飛び掛ってくる。右の首筋に、衝撃が走った。  雪が、主の首筋に牙を立てていた。鋭い牙が、食い破りそうなほどに突き刺さる。  主の頭を抱える形でしがみつく鬼に。 「そうか・・・」  どこか、安堵したように呟くと、主はそっと、その頭をなでた。 「お前が、鬼に襲われたのではなくて、よかった」  主が意識を失うのと、雪が我に返るのとが、同時。  そして。  切り刻まれた蝶の破片から、瞬時に伸びた植物の蔓が、雪に素早く巻きついた。蛇のように締め上げるそれは、蔓に細かい棘があり、締め上げたところで、一輪の小さな白い花が咲いた。 「だから、鬼に気をつけよと言うたであろう、保昌」    
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