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薄暗い照明。
鼻腔を擽る、アルコール。
シガーの紫煙なのか、薔薇とバニラが入り交じった、香り。
心地好い空間がここにはある。
生のピアノの音とバーデンが振るシェイカーが、この空間が日常から隔離されているという事実を演出している。
来ることのない人を待ち続ける意味なんて、ずいぶん前に薄れてきてしまっていたのに。
独りになる度に無意識に足を運んでしまう、初めての人との思いでの場所。
『シガーは香りを楽しむんだ』
初めての葉巻にむせこむ私に、世間慣れした、歳上のその人は言った。
キレイに吸い込む姿と、その指先に、心が奪われていった。
そんな思い出に浸る私に、顔馴染みになったバーテンがグラスを拭きながら躊躇いがちに声をかけて来た。
「・・・・・・もう半年、ですか?」
「そう、ですね」
静かに答えた。
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