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立花さんがバーコードで読み取っている。 伏せた目を見て、長いまつ毛だなぁ、なんて思った。 まつ毛も少し色素が薄くて、繊細な感じだ。 返却期限の書かれた紙を差し込む手元に視線を移す。 指も綺麗だな。 男の手に思えないくらい。 「7/26までに返却お願いします」 立花さんがそう言って、もう一度目が合う。 「あ、はい」 本を受け取ると、立花さんは何事もなく次の人の貸出手続きに移った。 残念。 その瞳を、もう少し見ていたかったような気がした。 カウンターを離れて出口に向かう途中、一度だけ振り返った。 立花さんは相変わらず淡々と仕事をしていた。 やっぱり昨日見たのは何かの間違いだったのかもしれない。 暑さで白昼夢でも見たのだろうか。 7月中旬にして、真夏日が続いていた。 「城戸(きど)!」 その時杉田に声をかけられた。 「あぁ杉田。お疲れ」 「何回か声かけたんだけど」 「え、ごめん。ぼーっとしてた」 「どうかした?」 「あーそれがさぁ、昨日…」 「何?」 「…いや、何でもない」 昨日のことを口にしようとしてやめた。 なんとなく、言いたくなくて。
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