7820人が本棚に入れています
本棚に追加
立花さんがバーコードで読み取っている。
伏せた目を見て、長いまつ毛だなぁ、なんて思った。
まつ毛も少し色素が薄くて、繊細な感じだ。
返却期限の書かれた紙を差し込む手元に視線を移す。
指も綺麗だな。
男の手に思えないくらい。
「7/26までに返却お願いします」
立花さんがそう言って、もう一度目が合う。
「あ、はい」
本を受け取ると、立花さんは何事もなく次の人の貸出手続きに移った。
残念。
その瞳を、もう少し見ていたかったような気がした。
カウンターを離れて出口に向かう途中、一度だけ振り返った。
立花さんは相変わらず淡々と仕事をしていた。
やっぱり昨日見たのは何かの間違いだったのかもしれない。
暑さで白昼夢でも見たのだろうか。
7月中旬にして、真夏日が続いていた。
「城戸(きど)!」
その時杉田に声をかけられた。
「あぁ杉田。お疲れ」
「何回か声かけたんだけど」
「え、ごめん。ぼーっとしてた」
「どうかした?」
「あーそれがさぁ、昨日…」
「何?」
「…いや、何でもない」
昨日のことを口にしようとしてやめた。
なんとなく、言いたくなくて。
最初のコメントを投稿しよう!