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昨日見たのは彼じゃなかったんだろうな。 でも、 あの人を見間違えるだろうか。 そこだけ鮮やかに彩られているような。 遠くにいても目を奪われるような。 そんな彼の姿を。 …美形というのは得だよな。 立花さんの姿が思い浮かぶ。 ぱっちりとした二重まぶたの目。 俺も二重だが、どちらかと言えば切れ長だ。 大きな瞳は綺麗な色をしていて。 想像の中で、その瞳と目が合った。 苦しいような居心地の悪い感覚が胸を締めつける。 やめた。 考えない方がいい。 どうしても俺は彼が嫌いらしい。 人の好き嫌いは激しくないつもりだったんだけど。 ――― って、 なんで、また来てしまったんだろう…。 図書館の入り口の前で入るのをためらっていた。 いや、勉強しに来ただけだし。 まぁ本も借りるけど。ついでだ、ついで。 そう自分に言い聞かせて、意を決して中に入る。 まずは昨日借りた本を返そう。 返却と貸出手続きは同時にはしたくなかった。一回で済んでしまうから。 あれ。 いない… カウンターに目をやると、今日は立花さんはいなかった。 なんだ…ちょっとがっかりした。 そりゃ司書の仕事はカウンター業務だけじゃないよな。 やっぱり返却も後でしよう。
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