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―城戸優太―
ローカル線の電車を降り、大学までの道のりを歩く。
外を歩くのは朝でも暑いが、日中と比べると幾分と爽やかだ。
空を見上げれば澄み渡った青い空が広がっている。
この道を昨日薫さんをおぶって歩いた。
甘えてくる彼を思い出すと、愛おしさに胸が締め付けられる。
でも彼はどこまで覚えているだろう。
手をつないだだけでも顔を真っ赤にするような人だ。
もしも昨日のことを全部覚えていたら、俺は避けられかねない。
かと言って全部忘れられているのも複雑な気持ちだ。
このことを考え出すと、緊張で図書館へと向かう足取りは自然と重くなっていった。
***
カウンターにはいつもと何ら変わりない、冷たい美貌の彼がいた。
昨日のことなんて嘘のように、鋼の無表情で仕事をしている。
「薫さん」
そっと声をかけると、薫さんがいつもより大きくビクッとして顔を上げた。
目が合ったとたん、薫さんの顔が一瞬にして真っ赤になる。
…今度はさっきまでの冷たい印象が嘘みたいだ。
そしてこの反応からすると、どうやら昨日のことは覚えているらしい。
「おはようございます」
笑いかけて挨拶するが、薫さんは穴のあくほど俺を見つめて身動きすらとらない。
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