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薫さんはもう帰ったんだろうか。
傘、持って来てたかな。
濡れてないといいけど。
ざあざあと降る雨を見ながら、薫さんのことが心配になった。
昼間は雲一つない快晴だった。もしまだ残っているなら、傘は持って来ていない可能性が高い。
薫さんを待ちながらも、もうとっくに帰っていて既に家に着いていてほしいと願った。
「……城戸くん」
しばらくして静かに声をかけられた。
「薫さん…」
どこから来たのか。
声のした方を見ると、そこには薫さんがいた。
「約束、してないのに…」
「雨宿りしてただけですから、気にしないでください」
重い空気が流れ、気まずさが漂う。
「……」
「……」
二人の間に沈黙が降りて、並んでただ目の前の雨模様を眺めていた。
だけど、どんなに気まずくたって逃げないでいてくれている。
それだけでもありがたいことだ。
こっそりと様子を窺うと、薫さんはやっぱり赤い顔で俯いていて、その表情は強張っていた。
「城戸くん…」
「はい」
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