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玄関に入って扉が閉まるなり、薫さんが笑い出した。
「あはは!おかしい!僕こんなことしたの初めて!」
その様子に目が釘付けになってしまう。
だって薫さんが大笑いしているから。
こんな薫さん、初めて見るから。
手はまだ繋がれたまま。
薫さんが笑すぎて出た涙をぬぐう。
「ごめん、なんか楽しくって。なんでだろうね」
「分かります。こんな目に遭ったのに、俺もすごく楽しいから」
「ふふふ、僕たちびしょ濡れだ」
「ひどいですね、これは」
靴の中から下着まで何もかもがもうぐっしょぐしょだ。
髪も顔もまるで頭からバケツの水をかぶったみたいになっている。
「先にシャワーどうぞ」
手を離して薫さんが言った。
「薫さんからどうぞ」
「城戸くんから」
「だめ。薫さんが浴びてからじゃないと俺は浴びません」
ここは譲れないので、有無を言わせない強い口調で言った。
大事なのは薫さんだけで、俺のことなんてどうだっていいんだ。
「……ありがとう」
「いいから早く行って」
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