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薫さんのすぐ後ろまで近づいて。
ふわっと、
肩にかけていたバスタオルで、そのまま薫さんの髪を包みこんだ。
「えっ、あの…」
「じっとしてて」
一つのタオルが二人を包む。
後ろから抱きしめているような体勢。
いっそこのまま抱きしめたいな。
薫さんの髪を拭いてあげながら、そんな考えが頭によぎった。
薫さんはされるがままに、ただじっと黙っている。
「ゆーた…」
ふと、薫さんが俺をそう呼んだ。
あぁ、これ好きだ。
薫さんが呼ぶ、俺の名前の響き。
聞く度にそう思う。
雨というハプニングで、薫さんの緊張が取れたのかもしれない。
そんな単純なところが薫さんにはあって、ねちねちと引きずらないさっぱりとしたところがとても好感が持てる。
「なんですか?」
「……ずるい」
拾った言葉はそう聞こえたように思えたが、小さかったので定かではない。
「え?」
「なんでもない…」
薫さんが俯いて、かすかにはにかんだ気配がした。
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