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「あ」 その時視界の端にカバンが目に入って、まずいことに気づいてしまった。 薫さんが不思議そうに覗き込んでくる。 「どうしたの?」 改めて俺のカバンを見ると、いや見なくても分かる… ずぶ濡れだ。 「やばい…薫さん、俺、本借りてた」 「え?」 祈るような気持ちでカバンの中の本を取り出す。 出てきた本を見て薫さんが青くなった。 「あ…」 「どうしよう?」 「…ちょっと待ってて」 そう言って立ち上がった薫さんは、洗面所からドライヤーを持って帰ってきた。 *** こんな時にこんなことを思うのは不謹慎だと分かってる。 俺のために頑張ってくれてるのも分かってる。 だけど可愛い。 めっちゃ可愛い。 濡れた本をローテーブルの上に置いて、正座で一生懸命にドライヤーを当てている薫さんの姿が微笑ましくてしょうがない。 絶対無理だと思うんだけど、その真剣さが可愛くて黙って見ていた。 「ゆーたっ」 「なんですか?」 「どうしよ!」 「え?」 「見て!ふにゃふにゃになっちゃった!」 薫さんが困った顔をして乾かしたページを見せてきた。
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