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それは
ごく普通のブレザータイプの、モスグリーンの制服やった。
なんや?
そんな嬉しそうに抱えて……
俺は訝しげに尋ねた。
「ああ、それな、うちの高校の制服や。なんや雪斗くんブレザー初めて? 前の学校学ランやったんか?」
「え……あっ、いいえ」
雪斗くんは、ぎゅっとなんのへんてつもない制服を抱きしめて、夢見るような瞳をした。
「……その、僕…。今まで“一度も”学校行かせてもらったことないんで、初めてなんです。…制服」
え…!? ちょっ……
なんで……と、言いそうになった俺に、雪斗くんは少し悲し気な顔をして……
それでも口だけは笑おうと無理して……
戸惑う俺に説明してくれよった。
「――…僕は…、『巫女姫』だから……。こうして御国家へお世話になる日が来るまでは、【屋敷の結界】から決して外へでてはならない《しきたり》なんだそうです」
はぁ!?
あんまりな時代錯誤的な話に、なんも言葉をかけられん俺に
雪斗くんは慌て、首と両手を振った。
「あっ!! でも御国のおじ様が、いっぱい家庭教師をつけてくださったんで、勉強の方は大丈夫ですよっ」
そう言いつつ、再び制服を、抱きしめる。
「――…でも……、本当に『学校』に行けるんですね……」
雪斗くんは……
これ以上ないってくらいの笑みを浮かべた……。
「…嬉しいな」
なんやねん。
なんやねん。……それ……
『巫女姫』って、なんなんや!!
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