第1章

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 野良猫暮らしを、気ままに堪能していた。 でも飼い猫のように、家が欲しいと思うこともあった。 飼い猫なんて野生のプライドを捨てた獣の誇りを……。 大自然の厳しい掟を、我が身で受け入れてこそ命とは……。  そういう気持ちを、失いかけていたとすれば。 俺もそれなりに年を経たという事だろうか。 家が欲しいのか、誰かと過ごす日々に憧れたのか。  とにかく、野良猫にとって辛いのは雪の季節だ。 犬は喜びに庭を駆け回るのだろう。彼らは逞しい。 だが猫といえば、贅沢に……コタツでなくてもいい。 せめてカマドの煤にまみれて灰猫と呼ばれても構わない。  どうであれ白く冷たく。世界の汚い物を覆い隠して、 何事も無かったかのように、白紙の原稿用紙に戻す。 そんな雪が。嫌いだ。余りにも外であると思うから。  1年ほど過ぎた頃。自分ではよく憶えていないが、 猫としては2?3歳だったと思っている。名前はない。  俺の毛並みを笑った無礼な猫と、雪の日に出会った。 真っ黒で手足だけ短く白い。人間でいうなら くるぶしの少し上辺りまで純白で、他は全て黒い。  それに比べて俺は、キジ三毛の美しき三毛猫である。 しかもプレミアムレアの♂である。三万分の一のレア。 日本では三毛猫♀は珍しくないが、海を渡った西洋では 三毛猫自体が珍しいので「MI―KE」とも呼ばれる。  招き猫のモデルとしても、大人気の三毛猫を見て苦笑する。 世界中に掃いて捨てる程に溢れる黒猫が、無礼千万だ。 公園の縄張りを巡って、久々に血を血で争うのも一興。  かかってこい。  だが、その白黒猫は言った。 『おまえさんの毛並みを笑ったわけじゃないさ。』 「では何故、ケンカを売る?そして何故ツメを出さぬ?」 『おまえさんの周囲に、キラキラした光の粒が見える。』 「そんな事は知っている。これが何だというんだ。」 『何でもない。立派な毛並みを無駄にするのはどうかな。』 「意味が解らぬ。何を言いたい。」 『素直になればいい。じゃあまたな。ライトくん。』 「話は終っていないぞ。ライトとは何だ!」 『光という意味だ。』  白黒猫が姿を消した時、俺は一撃を浴びせようと手を。 手を、もがいて。バタバタと、泳いで。暴れて。喚いて。 消えて行く白黒は、その気配すら消してしまい。  俺はとある人間の女性に抱きかかえられた。 暴れて、その腕を振り解いて、引っ掻いて、噛み付いて。
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