第一章:人生に、ひとつだけの恋

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放課後は、竜司との待ち合わせまで図書室で時間を潰し 時計が17:30を示すと同時に、カバンを抱えて立ち上がる。 一日中この瞬間を楽しみにしていたものだから 図書室で眺めた本なんて、正直記憶に残っていない。 慌てすぎたせいか、校舎を出た瞬間ポケットから携帯が飛び出し、アスファルトの上を滑っていった。 慌てて拾い上げたその画面に表示されているのは、愛しい人からのメール。 【6時に駅前のファミレスでいい?】 これは、5時間目に届いたものだ。 もう何度も読み返しているのに、開く度何度でも気持ちは高揚する。 ゆっくり歩いても十分間に合う距離を小走りで向かいながら ふと思い立ってカバンから櫛を取り出した。 頑張って伸ばした髪は長く、胸の辺りで毛先が揺れている。 何もかもを持ち合わせている愛がショートカットだから これは、ひとつでも勝るものを持ちたいというささやかな気持ちの表れだ。 こんな事で愛と同等になれるとも これが肝心の竜司の好みなのかもわからないのに 自分のプライドを守るように 丁寧に、毛先から順に櫛を滑らせていく。 そして時計を見て、再び足を踏み出した。
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