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「ただいま、ちゃんと書いてるのか?」
その声に振り返ると、長い前髪をなびかせて、家に入ってくる姿は、どこぞのモデルみたい。
そして編集者らしいセリフに、チッと舌打ちをしてしまう。
ぜーんぜん仕事が、手につかない状態です。
なぜならばそれはアンタが、僕に構ってくれないからだよ。
そう言ったところで、鼻で笑ってあしらわれるのが、目に浮かんでしまった――
「随分早いお帰りだね、取立ては無事に終わったんだ?」
僕から見たら編集者って、借金の取立てと同じように、見えてしまう。
期日をキッチリ守ればいいのが、分かってるけど毎回そんな、上手いことは、いかないんだ。
生みの苦しみを少しは、理解してほしいんだけど。
「俺の担当する作家は基本、納期を守る人が多いからな」
お前以外は――と、目がしっかり語っていた。
マジでムカつくなぁ、もう!
イライラを消化すべく、右手親指の爪を噛み噛みし、PCの画面に向き直った。
「なぁこのBGM、昼間っから何、エロいの大音量で、流してるんだ?」
呆れた声で言いながら、ハンガーに上着をかけていく。
横目に映るそれを見ながら、同じように呆れた声で、返してやった。
「ぜんっぜん、エロくないし! むしろ聴いてて仕事が、さくさくっと捗っちゃうんですけど」
「あっそ。それは良かったな」
良かったなと言いつつ、口調は全然良さそうじゃない。
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