ピロトーク:不満満載なボク

5/9
前へ
/220ページ
次へ
「ただいま、ちゃんと書いてるのか?」  その声に振り返ると、長い前髪をなびかせて、家に入ってくる姿は、どこぞのモデルみたい。  そして編集者らしいセリフに、チッと舌打ちをしてしまう。  ぜーんぜん仕事が、手につかない状態です。  なぜならばそれはアンタが、僕に構ってくれないからだよ。  そう言ったところで、鼻で笑ってあしらわれるのが、目に浮かんでしまった―― 「随分早いお帰りだね、取立ては無事に終わったんだ?」  僕から見たら編集者って、借金の取立てと同じように、見えてしまう。  期日をキッチリ守ればいいのが、分かってるけど毎回そんな、上手いことは、いかないんだ。  生みの苦しみを少しは、理解してほしいんだけど。 「俺の担当する作家は基本、納期を守る人が多いからな」  お前以外は――と、目がしっかり語っていた。  マジでムカつくなぁ、もう!  イライラを消化すべく、右手親指の爪を噛み噛みし、PCの画面に向き直った。 「なぁこのBGM、昼間っから何、エロいの大音量で、流してるんだ?」  呆れた声で言いながら、ハンガーに上着をかけていく。  横目に映るそれを見ながら、同じように呆れた声で、返してやった。 「ぜんっぜん、エロくないし! むしろ聴いてて仕事が、さくさくっと捗っちゃうんですけど」 「あっそ。それは良かったな」  良かったなと言いつつ、口調は全然良さそうじゃない。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

105人が本棚に入れています
本棚に追加