0人が本棚に入れています
本棚に追加
そのロボットは夜に飛ぶ。
少年はそれを知らなかった。夜は子供の寝る時間だから。
ある日出会った老人に見せてもらった映像で少年は初めてそれを知った。
夜空をロボットが飛んでいく。憧れの目で見ていると老人が問うてきた。
「君は魂をかけられるか?」
「おう」
少年は答えた。魂をかけて何かに挑戦することは尊いことだ。そう思っていたから。
その目標が憧れを持って挑めることならなおさらだ。
映像の中で戦いが始まる。ロボットが攻撃を放ち、敵の反撃を回避する。少年にはそれが鳥のように見えた。
オウルは夜に哭く。少年はまだ何も知らない子供だった。
青羽第14高等学校に今日の授業の終了を告げる鐘の音が鳴った。
月日が流れ、少年は高校生となっていた。彼の名前は三途河 リズ(みとがわ りず)。17歳になっても彼の目標は変わらなかった。
航空学を勉強し、JINM(ジン)の一員になり、あの夜空を飛ぶロボットに乗るのだ。
JINMの活躍はたまにニュースになっている。かつての憧れはもうすぐ身近になっているように感じられた。少年は鞄を手に取って立ち上がる。
「帰って勉強するか」
「帰って勉強するか、じゃないわよ!」
その時いきなり背後からどつかれた。振り返ると怒った様子の少女がそこにいた。彼女の名前は釈迦萩 ノア(しゃかはぎ のあ) 。幼馴染でクラスメイトの少女だ。
「今日はわたしの買い物に付き合ってもらうわよ」
「僕、そんな約束したっけ?」
「してないけど、あんたが勉強ばかりで家にこもろうとするからこのわたしが外の空気を吸わせてやろうってんじゃない。感謝しなさい」
「外の空気なら窓を開ければ吸えるし」
「うるさい! つべこべ言わずに来るの! 返事は?」
「おう」
逆らっても無駄だってことは幼い頃からの付き合いから分かっているので、彼は素直に言うことを聞くのだった。
太陽が山の上にかかる夕方までさんざん連れまわされ、ノアは今日付き合ってくれたお礼にと言って缶ジュースを一本おごってくれた。
商店街の入り口から少し離れた所の片隅のベンチに並んで腰掛け、ジュースのプルタブを開ける。ノアはしんみりした口調で話しかけてきた。
「リズはさ、卒業したらJINMに入るんだよね」
「うん、そのつもりで高校も決めたしね。合格出来ればだけど」
最初のコメントを投稿しよう!