第1章

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「合格出来るよ。リズはわたしよりも頭良いもの。悔しいけど」 「ノアも入るつもりなんだろ?」 「わたしはお父さんがあそこで働いてるからね」 「コネを使って入社するってわけだ」 「うっさい。少しばかり勉強出来るからっていい気になるな。入社試験ではあんたより良い成績をとって通ってやるからね」 「ノアの頑張りに期待しているよ」  ジュースを飲み終わり、立ち上がる。缶を捨てて見上げると、夜に染まった空を横切っていくロボットが遠く見えた。  ノアも並んで見上げ、呟いた。 「オウルか。あれもたいがいよく分からないロボットよね。どうして昼には飛ばないんだろう。昼にも活動すれば資源ももっと効率よく集められるだろうに」 「僕達はまだJINMの一員ではないからね。部外者には明かせない秘密というものがあるんだと思うよ」 「秘密ねえ。まあ、あれがいつ活動しようと仕事さえしてくれればわたしはどうでもいいけどね」 「僕達が暮らすための資源を集めているんだよ。そういう言い方はどうかと思うよ」 「あんたもしっかり働いてよね。わたし達の未来の暮らしのためにさ」  背中をばんと叩かれる。ノアは機嫌が良さそうに笑っていた。  リズも悪い気分では無かった。こんな生活がいつまでも続いていくんだろうなと思った。  刀を血が伝っていく。誰の血かなどと問うまでも無かった。  これは自分の血だ。自分が刺されて溢れ出た血だった。夜の路上に広がった血だまりの中にリズは倒れる。 「悪く思うな。これは地球のためなのだ」  刀の血を振り払い、謎の男はそれを鞘に納めた。 「汝の魂が正しき道へと導かれんことを」  その言葉を最後に聞き、リズの生涯は幕を閉じた。  過去の思い出から戻り、今のリズは夜空を飛んでいた。  そこはかつて憧れた空。憧れたオウルの中だった。  今の彼は世界の真実を知っていた。ここは夜の空間、敵も味方も同じ者達しか存在しない世界。 「どうしてこうなってしまったんだろうな。どうして僕は……」  最近はそんなことばかり考えてしまう。今の彼はもう普通の人間では無くなっていた。 「哲学を論じるのは昼の連中に任せて夜ぐらい気楽に騒ごうぜ」 「はめを外しすぎちゃ駄目よ。今は任務中なんだから。リズくんはもう少しリラックスしてもいいけどね」
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