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うっそうとした森の中、宙に黒い穴が開く。
俺はその穴からそっと覗いて、周囲に誰もいないことを確認した。
「無事到着っすか? 」
タカノがキョロキョロと辺りを見渡す。
「とりあえず、1ヶ条目の『移動の瞬間を見られてはならない』はクリアかな」
と、一息ついたところで、何か嫌な予感がした。
話だそうとするタカノに「しっ! 」と指で制す。
耳を済ますと、カンカンカンと、金属が木にぶつかる音がする。
しかも、すごいスピードで近づいてくる。
俺は咄嗟に身をかがめた。
とすっ
音の正体は、ぼーっとしていたタカノの足元に刺さった。
「ななななんすかコレ!? 」
スコップだな。
と、俺は冷静にツッコミたいのを我慢する。
っつーか、マジかよ、おい。
「早速、不運の始まりか。
いつもより仕事が早いな」
俺は苦笑いを浮かべた。
別の世界からやって来た俺達は、この世界の理から外れる存在の為、排除しようとする力が働く。
その為、このように、偶然が重なって命が狙われることが多々ある。
霞の里の者はコレを『不運』と呼んでいた。
「不運? ……ってコレが噂の!? 」
「あぁ。
こんなのがしばらく続くから覚悟しとけ。
5ヶ条目に『排除されないよう十分に気をつけること』ってあるくらい危険ってことだ」
タカノによく注意していると
「おぉい、大丈夫だったか? 」
と、茂みの奥から慌てた様子で恰幅のいい男性が出てきた。
「大丈夫ですよ。
怪我1つしてません」
俺はへたり込んでいたタカノを立たせ、笑顔で答える。
「悪いな。手が滑っちまってよ。
ん? あんたら、採掘にきたんじゃなさそうな格好だが、こんな場所で何してたんだい? 」
「旅の者で、街に向かう途中迷ってしまったようです。
すみませんが、道を教えてもらえますか?
ついでに、本屋と軽食屋も教えてもらえると助かります」
「あぁ、お安い御用だ。
ちょっと地図描くから待ってろ」
男は、俺達に怪我がないことにホッとして、快く引き受けてくれた。
待っている間、タカノは男が採掘した石を見ていた。
「いい石っすね。
里にはない石っす」
「そうか。持って帰るなよ」
「わかってますよ。2ヶ条目っすよね」
タカノは口を尖らせた。
2ヶ条目は『その世界の物を持ってきてはならない』だ。
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