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「シュウ、お前の報告じゃコウは物足りないようだぞ。
コウの思考がどんどん他所に行っている」
長が口元を扇子で覆いながら、楽しそうに笑う。
俺の心勝手に読むなよ!
シュウも「は? 」って顔で見てんじゃねー。
「報告は十分ですよ!
それにしても、刀鍛冶の世界は危険が多いし、修得にも時間がかかる。
その上職人気質で2週間じゃ習わせてくれない人が多いだろうからって、しばらく保留にするつもりだったじゃないですか。
いつ心変わりしたんですか? 」
話を逸らす為に、さっき疑問に思ったことを聞いてみる。
異世界では、俺達が過ごせる限度がある。
それが2週間。
その短い期間だけ弟子入りしようってんだから、ここでよっぽど腕のいい職人になっていないと異世界へは行けない。
タカノも若いが、腕はいい。
でも刀鍛冶だぞ? 無理じゃね?
「タカノの熱意に折れたのと、いい訪問先を見つけたからだよ。
タカノはここでは十分腕のいい職人だ。2週間でやれるさ。
最悪、違うやり方や色んな武器の形状を見て帰るだけでも十分収穫になる」
俺は最初に、ふ、と一瞬目が逸れたのを見逃さなかった。
そして、2ヶ月ほど前、タカノが嘆いていたことを思い出した。
「……もしかして、以前タカノが楽しみにしていた特製ジャンボプリン、間違って食べてしまった負い目……とかじゃないですよね?」
「……」
「……」
「じゃあ、明日からそのプリントのカリキュラムで頼んだよ」
「あ! 逃げんな!! そんなプリンごときで命懸けの旅の準備を短縮された俺の身にもなれ!!! 」
俺は怒鳴ったが、長はとっくに扉の向こうへ消えていた。
「コウ、どうせ長の言うことには逆らえないんだから、いちゃもんつけるの辞めれば? 」
シュウが俺の肩にポン、と手を置く。
「いちゃもんじゃねーよ。
ちくしょー」
シュウは、俺が長に気があることを気づいている。
でも、それが悔しくて、苦し紛れに悪態をついた。
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