27人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ、梨沙」
いきなり真由が私の腕を掴んだ。
真由の細い爪が腕に食い込む。思いの外強い力に驚いた。
「私……、嬉しかった。変なやつに捕まる度に、梨沙が私のこと助けてに来てくれて」
真由はそのまま私の体を引き寄せると、そっと唇を耳元に寄せた。
鼻先に、ベリーのように甘酸っぱい真由の香りが漂う。
「でももう我慢できなくなったの。
ずっとずっと思ってた。
そんな遠回りばかりしてないで、梨沙がさっさと私のとこにくればいいのに、って」
真由は私から体を離すと、再び口角を上げ嫣然と微笑んだ。
「梨沙はとっくに、捕まってるのよ」
夏の終わりの夕暮れの中で、真由の赤い唇だけが、輪郭を濃くして私に迫ってくる。
「今さら、自由になんてさせないわ」
端から私の答えなど求めていなかったのか、真由のその柔らかな唇が、私から全ての声と思考を奪い去った。
Fin
最初のコメントを投稿しよう!