くればいいのに

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 「ねえ、梨沙」  いきなり真由が私の腕を掴んだ。 真由の細い爪が腕に食い込む。思いの外強い力に驚いた。  「私……、嬉しかった。変なやつに捕まる度に、梨沙が私のこと助けてに来てくれて」  真由はそのまま私の体を引き寄せると、そっと唇を耳元に寄せた。 鼻先に、ベリーのように甘酸っぱい真由の香りが漂う。  「でももう我慢できなくなったの。 ずっとずっと思ってた。 そんな遠回りばかりしてないで、梨沙がさっさと私のとこにくればいいのに、って」  真由は私から体を離すと、再び口角を上げ嫣然と微笑んだ。  「梨沙はとっくに、捕まってるのよ」  夏の終わりの夕暮れの中で、真由の赤い唇だけが、輪郭を濃くして私に迫ってくる。  「今さら、自由になんてさせないわ」  端から私の答えなど求めていなかったのか、真由のその柔らかな唇が、私から全ての声と思考を奪い去った。 Fin
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