6人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっ、ちょっと待って」
「じゃあね」
「待って待って! 頼むから!」
「着いて来ないで。来たらあそこの交番に入るよ」
飛んだ思考は戻らない。
何で俺がお袋の謝罪を、という親不孝さへ、浮かばなかった。
謝らなければ。
俺が。
頭の中には、それしかなかった。
「いやあの──、本当に、申し訳あ」
「聞こえない」
また、ぶつりと。
会話を切られた。
途方に暮れた俺を一瞥し。
そして彼女は、本屋に消えた。
後を追ったが、裏から出たらしく、解らなかった。
──待てよ、セールスに行くなら、名前も住所も、お袋が知ってるだろ。
お袋を問い詰めようと、コールを押し掛けて──やめた。
出来なかった。
俺が問い詰める事で、お袋は絶対また、彼女の家庭を悪意の土足で踏み荒らす。
今度こそ、報復で。
だから、出来なかった。
「クソばばぁ…」
最初のコメントを投稿しよう!