[ Ⅰ ]

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「ちょっ、ちょっと待って」 「じゃあね」 「待って待って! 頼むから!」 「着いて来ないで。来たらあそこの交番に入るよ」  飛んだ思考は戻らない。  何で俺がお袋の謝罪を、という親不孝さへ、浮かばなかった。  謝らなければ。  俺が。  頭の中には、それしかなかった。 「いやあの──、本当に、申し訳あ」 「聞こえない」  また、ぶつりと。  会話を切られた。  途方に暮れた俺を一瞥し。  そして彼女は、本屋に消えた。  後を追ったが、裏から出たらしく、解らなかった。  ──待てよ、セールスに行くなら、名前も住所も、お袋が知ってるだろ。  お袋を問い詰めようと、コールを押し掛けて──やめた。  出来なかった。  俺が問い詰める事で、お袋は絶対また、彼女の家庭を悪意の土足で踏み荒らす。  今度こそ、報復で。  だから、出来なかった。 「クソばばぁ…」  
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