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わたし、北野芽依(きたの めい)は、避けるほどではないけど接しにくい、そういう人間として完璧に生きてきた。
ローファーの下にある石畳の階段が強くわたしを肯定する。
ほどよいノリの軽さとぎこちない距離感を保って笑顔で輪から離れてきた。もちろん恋人がいたこともない。なのに、なのに……。
真っ赤になった石畳から顔を上げて自分にふりかかる言葉を待つ。
「北野さん、初恋の人よりすごく好み。付き合ってほしいなあ」
なんでこんな色んな意味でユルい人を引っ掛けてしまったんだろう。
言葉と似合わないほどの無表情のまま告白してきた相手は、ぽわんとした、寝起きの人みたいな顔で辺りをゆっくり見渡してあくびをした。自由すぎるにも程がある。告白をしながらこの態度っていうのは、よっぽど自分に自信があるんだなあ。
「はあ……」
なんとも言えない返事をしてからわたしもゆっくり首を回す。肩に届かないほどのボブがゆらゆらと揺れて首元を換気した。
あ、もしかしてこれって罰ゲームか何か? だとしたら、見ず知らずの先輩が目の前にいることにも、このムードの欠片もない告白にも納得がいく。高校生っていうのは恋愛に敏感なぶん軽々しく扱いがちだって兄ちゃんが言ってた。なるほどこういうことなんだ。
よし、それなら仕方ない。適当に断ってお互い平和に終わらせよう。
「あ、お断りします」
ちょっと買い出し行ってきてー、と親に言われてももう部屋着に着替えた後だった時と同じテンションで返事をした。お茶を飲むためだけにいたリビングから移動するついでに答える、あの感覚で。
相手の眠そうな目が、ちょっとだけ見開く。
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