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なんで? とでも言いたげな驚いた表情に、逆にわたしが「なんで?」って言いたい。ネタを察して軽く受け流したわたしの処世術のどこが不満だって言うんだ。
わたしが状況を理解する前に、相手は一人で何度か頷いて、やっぱそんなもんか、と呟く。
「自分でなんとかしなきゃいけないか……」
お散歩だと思ってワクワクしながら歩いていたら病院に連れていかれた犬、みたいな、ちょっとしょげたような表情をしてから、その先輩はわたしの方に向き直った。
放課後の中庭は赤くてまぶしい。
夕日を右肩に浴びながらわたしを見ていた先輩は、口元をゆるめて少しだけ笑みを浮かべた。
……、笑った。
「頑張って落とすね、北野さん。俺、二年の沢村 泰司(さわむら たいし)」
よろしくね、と一方的に言葉をしめると、何事もなかったかのように無表情に戻り石畳を後にする沢村さん。どうやら一つ上の先輩らしい。
笑顔に不意をつかれた私は、さわむらたいし、と呟いて、しばらく夢から覚めたてのときと同じ感覚でぼうっと立ち尽くしていた。
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