発症

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「い、いえ。その……どんな絵を、描くんだろうと思って」 「俺が?」 「……そうです」 沢村さんについて知らなきゃなと思ったわけだから、嘘はついてない。まさか正直に、無意識にじっと見ていましたなんて言ったら向こうがどうとらえるか分かったもんじゃないし。 「そっか」 そっけない返事。そのままキャンバスに目を戻して、さらさらと木炭を躍らせる。集中している時間を何度も邪魔するわけにはいかず、私は中庭に目を移した。 好きな人との会話ってこんな簡単に終わるんだ。いや、もしかしたら先輩がそういう人ってだけかもしれないし、今は絵を優先したいだけなのかもしれないし。ううん、よくわからないな。やっぱり恋愛小説はもう少し大人になって書きたくなってからでいいかも。 中庭にはプランターにいくつかずつ植えられた花がある以外に小さな池があって、鯉がのろのろと泳いでいる。ポチャンと聞こえる水音が涼し気でなんだか癒される。遠くの校庭からは運動部の掛け声が聞こえてきて、なんだか高校生になったなって実感がじわじわと湧いてきた。新しい制服がなじむのはもう少し先になりそうだけれど、それはそれでいい。 「ふー……」 沢村さんが大きく伸びをして、そっと木炭をしまう頃には、辺りはほんのり夕焼け色になってきていた。
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