第1章

3/8
前へ
/9ページ
次へ
痴漢はもちろん怖い。 しかし目の前の少女もまた怖い。 茶色く染まった背中まである長い髪、色黒の肌、濃いメイク、典型的なヤンキー少女。 校則を遵守して、一回も染めたことのない短く艶やかな黒い髪に、色白な肌、ほぼノーメイクの美奈とは正反対な少女。 (かかわりたくない) 美奈の気持ちは誰もが思う気持ちだろう。 「間もなく沼袋(ぬまぶくろ)ー、沼袋。お乗り換えは……」 駅への到着を知らせるアナウンス。 ほどなく、電車は駅のホームに滑り込み、そのドアを開ける。 (降りる駅だ) 「おい、ジジイ!駅員に突き出してやるかんな。」 少女がおじさんを掴んだまま降りようとする。 最後の抵抗とばかりにジタバタともがくおじさんの太った脇腹に、少女の鉄拳がめり込む。 「チッ、重いなコイツ。あ、お前も……」 「あ、あの助けていただきありがとうございました!わ、わた、わたし学校あるのでしつ、失礼します」 開口一番、少女に頭を下げると、美奈は人で溢れる長いホームを駆け出し、もみくちゃにされながらもその場から離れた。 ◆◆◆
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加