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私は戸惑った。礼拝堂に突然現れた女の悪魔が言ったのだ。
「好きだ」と・・・。
悪魔は、私の身体に自分の小さな身体を密着させた。後ずさりをしたが、後ろには壁があり、動くことが出来なくなった。
焦る私が感じるのは、彼女から漂う甘い香りと激しく波打つ私の胸の鼓動。いくら修行を積んだ神父と言えども、彼女の誘惑に心が揺らぐ。
「や・・・め・・・なさい」
私はやっと言葉を吐くと、先刻の礼拝で握っていた十字架を悪魔の顔へ掲げた。
「きゃあっ!」
彼女は目を瞑り、後ろに退いて床に座り込む。
悪魔は十字架には触れることは出来ない。
「ボクを、君の傍に置いてくれるだけでいいのに・・・」
潤んだ瞳は子鹿を思わせる。
惑わされるな。コイツは悪魔だ。
「だからと言って、教会に置いておく訳にはいきません。今、ここで退治します」
私が懐から出した十字架の描かれた短剣を悪魔に向けると、悪魔は訴えるように言った。
「ボクは下等な人間なんか相手にしないよ。まして、悪さなんかしてない」
「では、何故ここにいるのですか?」
「君が好きだから」
意味が分からない・・・。この悪魔は何がしたいんだ?
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