第一章

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生き延びること。 それが当たり前の毎日ではなかったから。 明日にはもう居ないかもしれない人間に、頼ることなどしたくなかったから。 ヴァンだってそうだ。 彼は戦闘の中に身を置いている。 いつ居なくなってもおかしくない。 それならいっそ、手を払いのけてしまえば楽になるんだ。 「あたし……暗殺者でしょ」 誰かの命を奪って生きて来た。 そんな自分が、平和に生きているせいで。 平和ボケしたのかもしれない。 「…………」 トントン、と音がした。 「……誰?」 リリーは玄関まで歩くと、念の為に銃を持ってドアを開けた。 「……ディラン!」 「やぁ、こんばんは」 今は二つの世界が一つにつながる月。 その最終日の夜ではあるが、まだディランはこちらの世界に留まれている。 「あんた、さっさと帰らないと大変なんじゃないの?」 「うん。ちょっと気になることがあってね」 「気になること?」 リリーは訝しげに眉を寄せる。 ディランは晴れやかに笑い、リリーの髪に手を伸ばす。 それを手の甲で押しやりながら、リリーは何のつもり?と聞いた。 「今日、リリーの様子がおかしかったから」 ディランのその言葉に、リリーがぴくりと動く。 見抜かされていたなんて。 暗殺者として感情を押し殺すことは得意だったはずなのに、随分と落ちぶれたものだ。 「気のせいでしょ」 「そうかな?」 「そうよ」 それでもなおディランはひかない。 「気のせいじゃないとは思うけどけども」 ついカチンときた。 放っておいて欲しいのに。 「……るっさいわね!」 バチッ。 リリーはディランの手を弾いた。
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