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生き延びること。
それが当たり前の毎日ではなかったから。
明日にはもう居ないかもしれない人間に、頼ることなどしたくなかったから。
ヴァンだってそうだ。
彼は戦闘の中に身を置いている。
いつ居なくなってもおかしくない。
それならいっそ、手を払いのけてしまえば楽になるんだ。
「あたし……暗殺者でしょ」
誰かの命を奪って生きて来た。
そんな自分が、平和に生きているせいで。
平和ボケしたのかもしれない。
「…………」
トントン、と音がした。
「……誰?」
リリーは玄関まで歩くと、念の為に銃を持ってドアを開けた。
「……ディラン!」
「やぁ、こんばんは」
今は二つの世界が一つにつながる月。
その最終日の夜ではあるが、まだディランはこちらの世界に留まれている。
「あんた、さっさと帰らないと大変なんじゃないの?」
「うん。ちょっと気になることがあってね」
「気になること?」
リリーは訝しげに眉を寄せる。
ディランは晴れやかに笑い、リリーの髪に手を伸ばす。
それを手の甲で押しやりながら、リリーは何のつもり?と聞いた。
「今日、リリーの様子がおかしかったから」
ディランのその言葉に、リリーがぴくりと動く。
見抜かされていたなんて。
暗殺者として感情を押し殺すことは得意だったはずなのに、随分と落ちぶれたものだ。
「気のせいでしょ」
「そうかな?」
「そうよ」
それでもなおディランはひかない。
「気のせいじゃないとは思うけどけども」
ついカチンときた。
放っておいて欲しいのに。
「……るっさいわね!」
バチッ。
リリーはディランの手を弾いた。
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