第一章

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「いいえ、今から会いに行くわ。思い立ったが吉日、でしょ?」 リリーは不敵に笑うと、涙の後が残る顔を拭った。 ディランがふっと吹き出す。 「それでこそリリーだ」 じゃ、俺はこれで。 ディランはそう言い残すと、そそくさと去って行った。 リリーはネグリジェを一度見直したものの、首をぶんぶんと横に振る。 着替えてる時間が惜しい。 早く会いたい。 一刻でも早く。 リリーはサンダルを履くと、ヴァンの家へと一目散に駆け抜けた。 近いとはいえ風のように走り、息を切らしながらもすぐに辿り着く。 「はぁ……」 一度深呼吸すると、トントンと扉を叩く。 「……はい」 寝ようとしていたのだろう、ラフな格好のヴァンが出てきた。 その顔は落ち着いていて少し憂いていたが、リリーを見た瞬間ぎょっとしたように目を見開く。 「リ、リリー!?」 はぁいヴァン、よる遅くに悪いわね。 準備していた言葉は喉から出なかった。 「……ヴァンっ」 リリーは手を伸ばすと、そこに居ることを確かめるようにヴァンに抱きついた。 「ちょっとリリー……」 「昼間はごめんなさい。あたし、どうかしてたわ」 視線を合わせないようにしていたリリーだが、意を決して上を見上げた。 彼はきちんとリリーを見てくれている。 「リリー……」 「あたし、勘違いしてたわ。人に頼ると嫌われちゃうかも、いつか居なくなる人に頼っちゃ駄目って……」 リリーはしっかりと彼の目を見つめる。 大きな赤い瞳は、少しうるんでいた。 「傍にいるくらいなら、離れた方がマシだって……そう思ってたの」 ヴァンはリリーをじっと見つめている。 リリーが言いたいことを待ってくれているのだ。 「でも違ったのね。あたし、そんなこと心配して離れるより……傍に居たいわ」
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