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「そんなことより、ひとつ訊きたい。君の名をまだ教えてもらっていないのだが」
「あ…」
そう言えばそうだったかと、アクアは記憶をたどる。
確かに名乗った覚えがない。
道理で龍威が“君”と呼びかけてくる頻度が増えたわけだ。
「ものすごく、変に思われるのかもしれないですけど…。私の名前も、アクアなんです。アクア=リトルガーデン」
「アクア。そうか。好都合だな。この部屋の外でも気にせずに君の名を呼べる」
(そ、そういう考えが出来るのね。前向きと言うのかなんというのか)
アクアはどうリアクションしていいか戸惑った。
「寝室にタイル張りの台があっただろう?あそこの水差しにはすでに水が入っている。顔を洗ってきなさい、アクア」
「はい」
確かにあれだけ泣いたのだから、ものすごい顔になっているのだろうと思いながら、アクアは寝室へと行く。
さっぱりとした顔で戻るとすでにキルアイドが食事を持って戻って来ていた。
いつの間にか、シーアも一緒だ。
結構早起きしたのにもう、そんな時間になっていたのかとぼんやり考えていたアクアはふとあることに気づく。
また、料理から湯気が立っていない。
スープでさえだ。
昨夜の夕食もそうだった。
今は夏場ではないので、すべて冷たいものにする理由が分からない。
「どうしたアクア?ああ、ローアジャウルでは毒見後、温めなおすことはしないから冷めた料理しか出せない。気に入らぬなら、次からは温めなおすよう言っておこう」
毒見。
その言葉にアクアはぞっとする。そういうこともあるのだと。
「大丈夫。龍威たちと同じものでいいです」
そう言って席に着く。
と、並べられた料理が四人分であることに首をかしげる。
「キールたちも一緒に食事をする。アクア、君のことも相談しておきたいしな」
「そういうこと。よろしく、姫さん」
「よろしくお願いします。姫様」
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