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「言えないのか? それは君が本当は鞠歌姫だからか?」
「違っ、違う…。言わないのは…言えないのは、信じてくれないと思うから。嘘はつきたくない。でも、本当のことも言えない。だから」
それだけしか言えない。
そんなアクアを見て幾分か表情を和らげた龍威は彼女に近づいた。
手を伸ばせば触れられる距離。
「信じると言ったら、話してくれるか?」
ややためらって。
でも、結局アクアは首を縦に振る。
全部打ち明けたいと思うからだ。
出身だけでなく、この想いも全て。
「では、もう隠し事はしないと約束して欲しい。君がサラファリアの人間でないのなら、私と敵対する人間でないなら、私の王妃でいる間はすべての者から君を守ると約束しよう」
普通の女の子はこういうことを言われると嬉しいのだろうかと、アクアはずれたことを思う。
でも、彼女は《番人》だ。
自分の身ぐらい、自分で守れる。
だから、最初に言うべきことは、考えなくても口から出て行った。
「守って下さらなくてもいい」
「何?」
「だから、傍に居させて下さい」
嫌われても、見限られても。
もう、隠し通すには限界だった。
「私は、戦場に生きることを生業とした者です。小さい頃、火傷を負って森で倒れていた所を助けてくれた方が所属していた集団は、各地からの要請を受けて兵士などを送る活動をしています。私もそこで訓練を受けて、戦闘技術を学びました」
「所属していた?」
「今はもう、彼はおりません。殉職しましたから」
「…なるほど」
アクアは龍威から目をそらし、かつて祭壇のあった方を見る。
壁に空いた大きな穴には、かつては素晴らしいステンドグラスがあったのだろうと思った。
「龍威が不審に思うのも無理はないですね。私はあの日、サラファリア皇城の森に現れたんです。どこかからサーガイアに来たのではなく」
なるべく、驚きを与えないようにと、気を配りながら、アクアは淡々と話しを続ける。
「先ほど話して下さった彼女のように…異世界から来たんですよ、私」
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