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龍威がかすかに動揺した気配を見せた。
「私が所属する集団…《世界の天秤》って言うんですけど。異世界へと続く門があるんです。そこを通って様々な世界の国と地域へ出掛けて行って…。あの日は私の初任務となるはずでした。門へ入って…出る時に何かが起こったんです。気がついたら…」
「サーガイアにいたわけか」
「ええ、連れとはぐれて参っている所、丁度、空愛姫と出会い、城へ招待され、そして空愛姫の身代わりを務めることになりました」
話し終えたアクアは龍威を見る。
長い沈黙の後、龍威はきっぱりと言った。
「信じよう。ありがとう、アクア。他に言いたいことは?」
ある。
とても重要なことが。
自覚した想いは膨れ上がり、沈黙を保つには、心が悲鳴を上げる。
それに、二人っきりになるチャンスなんてもう、ないかもしれない。
それでも、とアクアは躊躇する。
もし受け入れてくれなかった場合はどうすればいいのだろうかと。
もう頼ることのできる人はこの人しかいないのに。
「アクア?」
名を、呼ばれる。
彼女のものではない、名前を。
それは初めて会った時のように、優しく、穏やかで。
「好きです。龍威」
だから、アクアは言わずにはいられなかった。
言われた龍威は、驚きの表情を見せた。
「好きです。だから、傍に居させて下さい」
「しかし、帰るところがあるのだろう? 待っている人もいるのではないか?」
やけにうろたえた声で龍威は言う。
「帰る方法がわかりません。ここを追い出されればもう、行くところはないのです」
言い切ったアクアは目を閉じる。
情けないことに、龍威の顔を見る勇気がなかったのだ。
すると不意に抱きしめられた。
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