第二幕

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その晩、龍威はすることがあるからと、キールを伴って出て行った。 遅くなるようだったら先に寝ていてもいいと言われたアクアだが、眠くなかったので帰って来るまで起きていることにした。 「ねぇ、シーア」 「何でしょう?姫様」 「あのね、文字を教えてほしいの」 契約した《精霊主》の一柱、《大坐する大亀》(ペザントール)の与えてくれるスキルにより、異国どころか異世界でも会話は成り立つ。 それでも、文字を読み書きするには勉強するしかない。 この先、読み書きができなければ、何かと不便だろうとアクアは考えたのだ。 「私でよければ喜んで」 「ありがとう。あまりおおっぴらに出来ないから、こっそりとね」 空愛姫が読み書き出来ないはずはないだろうから。 「ちょうど、良いものを持っております。ここローアジャウルの伝説やおとぎ話を集めた絵本ですわ。それなら“空愛姫”が興味を持たれてはおかしくはないかと」 「そうね、持ってきてくれる?」 「かしこまりました」 この世界で生きていくためには、覚えなければいけないことは山のようにある。 でも、龍威の傍にいるためには、そのすべてを覚えなくてはいけない。 文字はその第一歩。でも。 「みんなどうしてるかなぁ。心配してるんだろうな。初任務、達成できなかったし。まぁあの先輩方のことだから、私がいなくても処理できたんだろうけど」 帰りたい。その気持ちがあることもまた事実だった。 ずっと考えないようにしてきたアクアだったが、一度きっかけがあると思い出がこぼれてくる。 懐かしい“家”と“家族”。
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