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その晩、龍威はすることがあるからと、キールを伴って出て行った。
遅くなるようだったら先に寝ていてもいいと言われたアクアだが、眠くなかったので帰って来るまで起きていることにした。
「ねぇ、シーア」
「何でしょう?姫様」
「あのね、文字を教えてほしいの」
契約した《精霊主》の一柱、《大坐する大亀》(ペザントール)の与えてくれるスキルにより、異国どころか異世界でも会話は成り立つ。
それでも、文字を読み書きするには勉強するしかない。
この先、読み書きができなければ、何かと不便だろうとアクアは考えたのだ。
「私でよければ喜んで」
「ありがとう。あまりおおっぴらに出来ないから、こっそりとね」
空愛姫が読み書き出来ないはずはないだろうから。
「ちょうど、良いものを持っております。ここローアジャウルの伝説やおとぎ話を集めた絵本ですわ。それなら“空愛姫”が興味を持たれてはおかしくはないかと」
「そうね、持ってきてくれる?」
「かしこまりました」
この世界で生きていくためには、覚えなければいけないことは山のようにある。
でも、龍威の傍にいるためには、そのすべてを覚えなくてはいけない。
文字はその第一歩。でも。
「みんなどうしてるかなぁ。心配してるんだろうな。初任務、達成できなかったし。まぁあの先輩方のことだから、私がいなくても処理できたんだろうけど」
帰りたい。その気持ちがあることもまた事実だった。
ずっと考えないようにしてきたアクアだったが、一度きっかけがあると思い出がこぼれてくる。
懐かしい“家”と“家族”。
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