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「まだ起きていたのか」
龍威が帰ってきたのは、おそらく日付が変わってから。
時計がないこの世界では、正確な時間は分からない――ちなみに通信機に時計機能は付いている――が、体の感覚からしてそんなものだろう。
「お帰り、龍威」
アクアはシーアに教わりながら四苦八苦しながら読んでいた本を置き、立ちあがって出迎えた。
「ああ…。ただいま、アクア」
龍威はややためらって、ただいまを言った。
言い慣れていないのだろうかとアクアは思う。
そう考えて、彼の家族のことを何も聞いていないのに気づく。
さすがに臣下にはただいまを言わないだろうが、それを言っていた家族はどうしたのだろうか。
「うん? 何をしていた?」
「シーアと読み書きのお勉強。出来た方がいいかと思って」
「それもそうだな」
目ざとく本を気にする龍威に笑ってアクアは言った。
促されて寝室へ向かう。シーアが一礼して部屋を出て行く。
「今日はシーアのお目付けいらないの?」
アクアがくすくす笑いとともに尋ねると、龍威の顔にも笑みが浮かぶ。
「私を害する心配はもうないだろう?」
夜着に着替え、布団にもぐりこむ。
隣に龍威がいても、もう緊張しない。
昨日とはすごい違いだ。
「アクア。君がいいというまで待っているから。安心してお休み」
「…ん。ありがと。お休み」
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