身売りと純粋

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厨房に入ると、先ほどいた部屋の何倍もの熱気と、スープのいい匂いが押し寄せた。 俺は急いで鍋の前まで行き、近くにあったスープ用の皿を布巾で軽くふく。 鍋の蓋を開けると、白い煙と熱い空気が立ち込めた。大きめの鍋に入る、白いスープを覗き見る。 もう少し煮込んだ方がいいか....。というか、完全に作り過ぎたなこれ。まあ、ほかの客にサービスでもするか。 俺は厨房内のスープ皿をかき集め、休憩室の光景を思い出す。 ........客は全員で十七人、だな。 集めた皿を並べて数える。 十七枚。 先ほど用意したモノを加えると一つ多い。まあ、自分の分にでもするか。 俺は鍋の中身を数回かき混ぜてから皿にそれぞれ盛り付ける。 持てる分だけその皿を持ち、俺は厨房を出た。 厨房よりも温度の低い休憩室内に入ると、調理中にかいた汗が冷え始めた。俺は手や腕に乗せた皿を落とさないように、注意深く客の待つ暖炉の方へと移動した。室内にコツ、コツと足音が響く。 ん? そう言えば先ほどの騒がしさが無いな。 テーブルについてる客はそわそわしながら飲み物や食べ物を口にしている。先ほど飲み物を運んだ威勢のいい男性客たちは小さな声で何かを話している。 何かあったのか?こんな短時間に? 室内の異様な空気を感じつつ、俺は暖炉に着く。 「お待たせしました。野菜スープです。少々熱いので気を付けて下さ................い!?」 俺は思わず一歩後ずさる。皿のスープが少量体にかかったが全く気にならなかった。 暖炉の前には、二人の人間がいた。 先ほど注文をした震える男性。 そして。 男とも、女ともとれる中性的な顔立ちをしている、俺と同い年くらいの、人間。 服装はとても雪山に相応しいとは言えない半袖半ズボン。露出している白い肌には複数の痣。 俺は瞬時に理解した。異様な空気の原因。 その人は、俺に気付くとその青い瞳をこちらに向け、ニコリと微笑んだ。 「こんにちは。ねぇ、この宿の一番安い部屋っていくら?」
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