身売りと純粋

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「おいこっち、ビール追加!」 「俺にはホットミルクを頼む」 「な、な、なんでもいいから、なんか、あったかいものを........」 部屋中で飛び交う声を俺は一つ残らず記憶する。ビールにホットミルクにあったかいもの............。 室内の熱気で湧き出る汗を拭い、大急ぎで厨房へと足を運ぶ。 誰もいないがらんとした厨房で俺は注文の品を作っていく。ビールは部屋の隅のビール樽から直接ジョッキに。ホットミルクは温蔵庫に作りだめしたやつを。あったかいものは、そうだなぁ、野菜スープにでもしとくか。ミルクをたっぷりいれた鍋の中に次々に野菜を放り込み、蓋をしめて火にかけた。 一息つき、俺はビールとホットミルクを持って厨房を後にした。 「お待たせしました!ビールと、ホットミルクです!」 ニコッと笑いかけ、それぞれ客の前に置く。 「おうボウズ、早いな。」 「そういや、店員ってお前だけなんだろ?よくこれほどの宿屋を一人で切り盛りしてるな。若いのに感心だぜ。」 二人の客は室内をぐるっと見渡し、各々の飲み物に口をつけた。俺も彼らに合わせて周りを見る。 ここは休憩所兼宿屋。数年前に亡くなった両親の代わりに俺が一人で営んでいる。 広い木製のこの休憩室内には七つのテーブルが置かれ、客はそれを囲み、飲食を楽しんでいる。決して小さいとは言えないモノではあるが、すべてのテーブルにぎっちりと人が集まっていた。中央に置かれた暖炉は特別製で四方八方全てから熱を放出し、客たちを温めてくれている。 「お、俺の、は?」 ガチガチと歯を鳴らし、震えながら一人の客がこちらを見た。彼の着ているコートにはまだ雪が多少残っており、彼自身からも冷気が感じられる。 俺が営んでいるこの宿屋は周りを標高の高い雪山に囲まれた場所にある。この付近には討伐対象のモンスターや、鉱石採掘場が多く位置し、訪れる人が絶えない。 それ故か、この宿屋の客は決まって体格の良い男性か、寒さに耐えられず採掘場から逃げてきた人、または遭難者である。 「只今スープを煮込んでおります。もう少々お待ちください。良ければ、暖炉の前で温まってはいかがですか?」 「そ、そ、そうしよう、か」 俺は部屋の隅に置かれた予備の椅子を暖炉の前まで運び、客を誘導した。 客は暖炉の前で手をかざし、じっと中の炎を見つめ始めた。 俺はそれを確認し、スープの様子を見に厨房へと急いだ。
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