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「えっと、二百ポルム、です。」
室内に綺麗に響いた低めの声に、少し戸惑った。 今まで宿を訪れた人の中で、こんなにも綺麗な人は、こんなにも見蕩れてしまう人は、いなかった。
目の前の客は、周りを見渡し、それからこちらを見た。
「へぇ、安いね。それって、夕食と朝食とかって付く?」
「はい。..........それよりも....」
「ん?」
キョトンとこちらを見る美しい顔。完璧な顔の造りに引き込まれそうであるのに、その中には幼さが見え隠れしている。
俺はスープを注文した客に皿を渡し、残った皿を近くのテーブルに置いた。
そして、自分の着ていた上着を一枚脱いだ。数枚重ね着していたおかげで厨房でかいた汗は浸透していなかった。それに安心し、俺はその上着を彼に渡す。
「どうぞ。汚いですが、ないよりは多少マシかと。」
彼は、上着と俺の顔を交互に見る。まるで、何が起きているか、分かっていないかのように。いや、実際分かっていないらしい。首を傾げているのだから。
「そのままでは風邪をひかれます。着てください。」
その言葉を発した途端、相手は目を丸くした。
俺、変なこと言ってないよな?
「....ありがとう。」
彼は受け取り、着た。大分サイズが大きいようで、袖から彼の手は出なかった。服を着終わると、彼は長めの襟の中に顔を半分うずめた。
同い年かと思ったけど、案外俺よりも年下だったりして........。
「あの。ついさっき、温かいスープが出来たのですがお食べになりますか?」
「....それは、いくらなの?」
彼は申し訳なさそうに視線を下げた。
「いえ、お金は取りません。サービスです。」
「え!じゃあ、食べる!」
「ははっ」
つい笑いが口から漏れてしまった。
「あ、すいません。はしたない、よね?」
「いえ。」
俺は先ほどテーブルの上に置いた皿を一つとり、彼に手渡した。
彼は受け取ると、それを一緒に渡したスプーンも使わず直に飲み干した。
心なしか、彼の頬が赤く色付いた気がした。
「おかわりはどうです?」
「....もらっていい、かな?」
「はい!」
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