≪飲み会≫

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「いえ。今はペットが一番可愛いんですよ」 いえって事は、恋人は居ないってこと。するとがっかりしたメンツが少し元気になった。まじ、現金だよな。ま、営業なんて、メンタル強くないとな。 「ペットですか?1人暮らしで、仕事が遅いから、寂しがりませんか?何を飼ってるんですか?」 1人が食いつく。 「犬です。まだ躾け途中なんですが、その犬が馬鹿なんですよ」 そういう課長の顔が、呆れている様子ではない、愛着があるのが普段1課の面々には分かったらしい。 「でも、犬って馬鹿なほど可愛かったりしますよねー。うち、実家にいるんで、凄く分かりますよ」 向かいに座っている1課の他の先輩が話しにのってくる。イヤな話題なら、話を続けようとはしないだろう。 「そうですね。言わなくちゃ分からないんですが、言えば言う事聞きますし、一途で可愛いですよね」 「わー。課長と犬談義が出来るとは思わなかったですね。うち、もう30年犬飼ってるんで、分からない事があったら、お教えしますよ?」 そう言う顔は、やはり直の上司と話していると言うよりも、憧れの人話しているように高揚した表情だった。 「その時は、よろしくお願いします」 1課の中でもあまりプライベートな話をしない三城課長が、珍しく部下に囲まれてあれこれ話してるので、自分も、自分も。と1課の連中が会話の輪に入ってきて、甲斐は同僚と共に、弾き出された。 「なんだよ、1課の連中、俺らが話してたのになー」 「ん?まぁ、しょうがないんじゃない?三城課長、カッコイイし、こんな機会じゃなくちゃ、あんなに話してくれないだろ」 そう言ったが、自分の言葉に、きゅうぅっと胸が締め付けられる様な苦しさに喘ぎそうになる。 ぐびり。と、少々炭酸の抜けたビールを飲み干すと、もう一杯、追加を頼んだ。 すぐに来たお代わりを、胸の苦しさを押し流すようにごくごくと喉に流した。
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