夏はその日、終わった。

5/12

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
携帯の画面を目的もなく適当にスクロールしながらただ時間が過ぎ雨が止むのを待っている円佳の耳に届くのは、地を叩く雨の音と死にかけた電灯の唸り声ばかりだった。 「――円佳先輩」 唐突に。 その声は、やってきた。 「春日」 周りは既に暗かった。 だから、円佳がもしも携帯画面ではなく外に気を配っていたとしても、彼女が現れたことには気が付かなかったかもしれない。 雨を避けることすら諦めたような春日の濡れように、円佳は慌てて電話ボックスのドアを内側から開いた。 冷やりとした空気がボックス内に侵入する。 雨のせいか陽が落ちたせいか、気温が大分下がっているのが分かった。 「入れよ。狭いし汚いけど、とりあえず凌げる。もうすぐ止むだろ」 「いいんですか?」 円佳は遠慮がちに聞いてくる春日に「別に私の専用ボックスじゃない」と笑い、いつまでも雨に打たれている彼女の腕を掴んで少し強引に中へ引き入れた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加