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髪を拭いてやっていた両腕の間から、春日のまっすぐな視線が見上げていた。
視線が絡む。
それこそが、円佳が長い事避けてきたことだったのに。
不意に訪れた沈黙に困惑した。
「先輩」
破られた沈黙に。
「先輩。やっぱり寒い……です」
困惑した。
「こんなに濡れて。……私もだけど」
狭くて穢れた場所だった。
2人入る設計ではない。
濡れた身体が小さな空間の湿度を一気に上げたせいか、ボックスのガラスが曇っていく。
元々薄汚れて透明度の落ちたガラスが、徐々に白に染まっていく。
――温め、なくては。
濡れたタオルは使われない電話の上に棄てるように置いた。
髪を拭くために頭に回していた手を背中に降ろしても、春日は抗わなかった。
「寒い……」
か細い声でもう一度、腕の中の少女はそう呟いた。
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