狼の宴

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サッカー日本代表の親善試合を終え、所属チームのあるドイツの自宅に戻ると、玄関の扉に凭れ掛かり、ふてぶてしい態度で俺を見つめる男がいた。 「何の用だ?」 鞄を置き玄関の鍵を開けようとすると、コートから手を出したソイツが、いきなり俺の首を絞めてきた。 「なっ……」 睨みつけると、更に力を込めて絞め上げてくるソイツ。 「俺に殺されたら本望だろ。あっ、折角だからイク瞬間に逝かせてやるよ。俺しか見えてない時に逝けるなんて幸せだろ?」 乾いた笑い声を上げたソイツは、俺の首から手を離す。 「何、アイツに触られて嬉しそうな顔してんだよ」 ゴホゴホと咳き込む俺の頬を包む、冷えた大きな掌。 睨みつけてくるその瞳は、少し寂しげな色を放っている。 「あの坊主のことを言ってるのか? まさかヤキモチ焼いて、わざわざドイツまで来たなんて言わないよな?」 親善試合で神童と呼ばれる高校生Jリーガーのアシストでゴールを決めた俺は、ゴール後にその坊主に髪がグシャグシャになるほど撫でられてしまった。 別にそれが嬉しかったわけではなく、ゴールしたことが嬉しかっただけだ。 今回は代表に召集されずに日本の所属チームでカップ戦を戦っていたが、代表でのゴールがどれほど嬉しいのか、代表経験のあるコイツならば分かるはずだ。 潮笑ってやると、手をコートのポケットに戻し、ばつが悪そうに茶色くなり始めた草木に目をやるソイツ。
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