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  キュッキュッといい音を鳴らしながら床を磨く。 天然の無垢材だけあって、磨けば光る。 貴子はちゃんとしたフローリングの部屋に 住んだことはない。 実家は全室畳で廊下は昔ながらの板の間。 社宅も改装しやすいように クッションフロアとかいうなんちゃっての床だ。 だから、拭いて光沢がでることはない。 ちょっと肩が疲れたが、ランナーズハイならぬ クリーナーズハイに駆られていた貴子は 夢中で床を拭いていた。 その時、背後から突然、綺麗な白い手が伸びて その細い腕では想像もつかない力で 貴子の身体が浮き上がる。 「えっ?」 貴子が後ろを見上げると、爽の無表情な顔。 でも、僅かに頬が強張り、爽が機嫌が悪いのが分かった。 「・・・ごめんなさい。起こしちゃった?」 ピクッと爽の綺麗な弧を描く眉がゆがむ。 その言葉が爽の怒りに火をつけたことにまでは 貴子に分かるはずもない。
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